このページの本文へ

柳谷智宣の「簡単すぎて驚く生成AIの使い方」 第17回

競合を分析してビジネス戦略を立案 ChatGPTをコンサルにしてコストダウンと精度の高い分析を得る

2025年05月30日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 本連載は生成AIをこれから活用しようとしている方たちのために、生成AIの基本やコピペしてそのまま使えるプロンプトなどを紹介。兎にも角にも生成AIに触り始めることで、AIに対する理解を深め、AIスキルを身に着けて欲しい。第17回はChatGPTを使ってビジネス戦略立案に必要な競合分析を行う方法について解説する。

多大なコストのかかる競合分析に生成AIを活用する

 ビジネスの戦略立案を行う際、競合分析を行うことが多い。競合企業の情報を広く収集し、深く分析し、自社と比較することで、強みや弱み、脅威、未来予測などを把握するためだ。競合他社がカバーできていないニッチ市場や、サービスの隙間を特定することで、新たなビジネスチャンスを見出せることもある。

 競合分析は継続的に行うことで、業界全体のトレンドを先読みし、戦略的な意思決定に活かすことができる。しかし、従来の競合分析は作業負担が大きいという課題があった。徹底した競合分析を行うためには、膨大な情報収集と整理が必要となるためだ。

競合分析の作業負担はとても大きい

 この作業を社内の限られた人材で実施するには限界があり、多くの企業が十分な競合分析を行えずにいるのが現状だ。とはいえ、外部のコンサルタントや調査会社に競合分析を依頼するには、大きなコストが発生する。中規模の調査会社でも、包括的な競合分析には数十万円から数百万円の予算が必要となる。

 このコスト負担は資金に余裕のない中小企業やスタートアップにとって現実的な選択肢ではない。そこでお勧めなのが、ChatGPTに競合分析をしてもらうこと。現在のChatGPTは検索機能を備えているし、推論能力も大きく向上している。驚くほどのクオリティのレポートを生成してくれるので、競合分析しようとしている人はぜひ試して欲しい。

詳細なプロンプトなら精度の高い分析が得られる

 精度の高い分析が必要なほど、詳細な情報をプロンプトに入れ込む必要がある。以下がシンプルな競合分析を行うためのテンプレートとなる。どうしても入れられる情報が用意できないなら、「なし」でも分析してくれる。手間取るくらいなら、まずは出力させることを優先しよう。

■プロンプト
以下の情報を元に、10社以上の競合企業について情報を包括的かつ詳細に検索し、「直接競合」の競合分析を行ってください。利用するフレームワークは、PEST分析、3C分析、SWOT分析の3つです。

###基本的に必要な情報

1. あなたの会社や製品・サービスの概要
   例:業種、ビジネスモデル、主な製品やサービス、顧客層など

2. 競合と見なしている企業・サービスの具体名
   例:A社、B社、または「東京都内の高級ペットホテル」などカテゴリー指定でも可

3. 競合分析の目的
   例:価格設定の見直し/差別化ポイントの明確化/Web集客の改善/新規参入可否の検討 など

###深掘りしたい場合に有効な情報

4. 対象市場やエリアの指定
   例:日本国内/関東エリア/欧米市場/BtoB SaaS業界など

5. 特に比較したい項目(複数可)
   例:価格/機能/顧客対応/UX/広告戦略/SNS活用/販売チャネル/業績/提携先 など

6. 自社と競合の違い(把握している範囲で)
   例:当社はサブスクリプション、A社は都度課金方式、など

7. 公開できる内部データ(任意)
   例:売上推移、顧客属性、既存の顧客満足度調査など(可能なら)


 今回は、これから筆者が実際に参入しようとしているビジネスについて、分析してもらうことにした。レアなウイスキーを小瓶に詰め替えて販売するECショップの運営だ。上記のテンプレを簡単に修正しつつ、自社の特徴のみ、力を入れて書いてみた。

 利用したのは「o3」。有料プランで利用できる、高性能な推論モデルだ。もちろん、ウェブ検索も可能。

■プロンプトの一部
6. 自社と競合の違い(把握している範囲で)
当社は、レアボトルやオールドボトル、発売されたばかりの新製品など、定番商品ではないラインナップを揃えるのが特徴。高価だったり、評判がわからない商品をひと瓶買うのは勇気がいるが、小瓶であればリーズナブルなので買ってもらえると想定。詳細なテイスティングコメントと連動するYoutube動画も用意しているのもポイント。

■出力の抜粋
要約
日本国内でウイスキーを50~100mlの小瓶(量り売り/詰め替え品)で販売している主要プレイヤーは、実店舗併設型・EC専業・サブスク型など形態が多様化しており、価格は50ml換算で約1,000~2,300円がボリュームゾーンです。政治面では酒税法の「詰め替え」規制が最大の参入障壁であり、届け出やラベル表示が必須。経済面ではウイスキー市場自体が2024年時点で43億USD規模、2033年までCAGR6%強で成長見込み。消費者は「高額ボトルを少量で試したい」「飲み比べを楽しみたい」という体験志向が強く、EC化率9.38%の日本物販市場において酒類のオンライン需要はまだ伸び代が大きい。技術面では小ロット充填機・耐アルコール容器・eコマースがコストを下げる一方、YouTube/LINE公式など動画・SNS施策が集客の鍵となります。以下にPEST→3C→SWOTの順で直接競合を網羅し、自社「トゥールビヨン」差別化の示唆を整理しました。

~中略

PEST分析の結果がわかりやすく表組になっている

コンペティター(競合)も指示通り10社リストアップしてくれた

 約2分半で、出力が完了。9591文字で、3方式での分析と差別化施策などを生成してくれた。

 差別化施策としては、セット販売や法規制コンプライアンスの透明化、蒸留所見学ツアーなどを提案してくれた。検索ワード「ウイスキー 量り売り 希少」で1位獲得を狙うといったアクションプランも提示。ライバルがまだ手を付けてなさそうなYouTube Shortで30秒テイスティング→LP流入、LINEで再購入クーポンといった現実的な仕組みも教えてくれる。

このクオリティでまだまだ本気は出していないChatGPT

 このクオリティとボリュームのレポートが150秒で手に入るのだから使わない手はない。もちろん、競合リストに見当違いの企業が入っていたり、有名な同業企業が入っていなかったりするが、それは後でブラッシュアップすればいいだけ。

 しかも、これはまだChatGPTの本気ではない。リサーチ業務に特化した「DeepResearch」という機能が用意されているのだ。月額20ドルのPlusプランなどでは月に10回しか利用できないプレミア機能だ。筆者が契約しているProプランでも月に120回しか利用できない。

 このDeepResearchに同じプロンプトを入力したところ、約7分で1万7749文字のレポートを出力してくれた。基本的な構成はo3と似ているのだが、圧倒的に深く、詳細に分析してくれている。

DeepResearchで同じプロンプトを入力してみた

 このクオリティは直接見てもらう方がわかりやすいだろう。以下の共有リンクを開くと、出力を閲覧できる。無料プランのユーザーでもOK。ウイスキー業界のコンサルタントのような広範な知識を元に、時に厳しい分析もしており、とても参考になる。

 繰り返しになるが、もちろん、細かいミスはある。それは後で対応すればいいだけだ。このレベルでも、人間が同じ作業をしようと思ったら、何日かかるかわからない。10分かからずに、このレポートが手に入るのであれば、月額200ドルのChatGPT Proプランも高くはないと思う。

■共有リンク
https://chatgpt.com/share/6822c24c-cf68-8004-95a9-d1f10152d429

 以上が、ビジネス戦略を考えるための競合分析をコンサルの代わりにChatGPTにお願いする方法となる。想像以上にクオリティが高く、もちろんビジネスで活用レベルだ。出力のクオリティは渡す情報量に比例するので、いろいろと試して欲しい。

AIで何とかしたい業務を大募集!

「簡単すぎて驚く生成AIの使い方」で取り上げてほしいAIの使い方を大募集。「この作業をAIで時短したい」「こういうことがしたいけどプロンプトはどう書けばいい?」など、お困りのことを解決します。

AIで何とかしたい業務を大募集!

応募はハッシュタグ「 #ASCIIAI連載ネタ 」を付けてXでポストするだけ。ハッシュタグ「 #ASCIIAI連載ネタ 」がついたポストは編集部で随時チェックし、連載記事で取り上げます。高度な内容である必要はないのでお気軽にどんどんポストしてください。

注目の最新AIニュース

都立学校で生成AI活用本格化、新ガイドライン策定で学びを加速

 5月12日、東京都教育委員会は都立学校における生成AIの利活用ガイドライン Ver.1.0を策定し、安心・安全な専用環境として「都立AI」を整備。令和7年度から本格的な活用学習を開始する。文部科学省の方針を受け、全都立学校の教職員および児童・生徒の校務・授業での生成AI活用を加速する指針だ。授業準備の効率化や個別最適な学び、教職員の働き方改革への貢献が期待される。都立AIは利用者の入力情報を学習しない設定となっており、教育利用に適したテンプレート機能やカスタムAI機能を備えている。

 AIリテラシーの育成も重要しており、初回の授業から教育活動全体を通じて、生成AIの仕組み、ハルシネーションなどの注意点、効果的なプロンプトの出し方を学ぶ。技術進展や実践状況に応じた改訂も行われ、AI時代に対応できる情報活用能力とAIリテラシーの育成が都立学校全体で推進される予定だ。

教育委員会は授業で利用する教材なども公開している

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ