業務を変えるkintoneユーザー事例 第258回
名古屋の自動車買取会社が歩んできた「kintoneでワクワクするまでの旅路」
紆余曲折の6年間 kintoneを使いこなすのに大事なことはサウナと岩盤浴で下りてきた
2025年05月02日 11時00分更新
2025年4月15日、サイボウズはkintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive nagoya」を開催した。冒頭に登壇した車買取会社ワクワクの金子英雄氏は、6年前に導入して長らく使いこなせなかったkintoneの紆余曲折を赤裸々に説明。kintoneで「ワクワク」するようになるまでの旅路と持論を披露した。
kintone導入の理由は「うちDXやってます」と言いたいだけ?
毎年恒例となったkintone hiveはサイボウズが主催するkintoneユーザーの事例共有イベント。今年は4月15日の名古屋を皮切りに、仙台(5月13日)、広島(5月27日)、福岡(6月17日)、大阪(7月1日)で開催され、7月15日開催の東京までオフラインで開催される。各会場では6~7社がユーザー事例を披露し、参加者の投票により、地区代表を決定。11月に開催予定のCybozu Daysのkintone Award 2025に登壇し、グランプリが決定されるという流れになっている。
9回目を迎える今年のkintone hive nagoyaは6社が登壇。司会を務めるサイボウズ 中部営業部グループの柴田知佳氏は、現場主導で業務システムを構築できるkintoneの導入社数が3万7000社を突破したことをアピール。「100社100通り」を謳うこのkintoneの使い方を共有し、ユーザー同士がつながるイベントがkintone hiveであると説明。また、楽しむための3ステップとして「活用ノウハウの引き出しを増やすこと」「業務改善のプロセスからも学ぶ」「積極的に学びを共有する」などを挙げた。
冒頭、「kintoneでワクワクしていますか?」というタイトルでトップバッターとして事例登壇したのは、ワクワク代表取締役 金子英雄氏だ。温泉ソムリエ、サウナスパ健康アドバイザーなどを持ち、「サウナ特命係長」を名乗る金子氏は神奈川県出身。長らく新車トラックやネット広告の営業を経て、車の買い取りを展開するワクワクを愛知で創業した。今年で創業8年目を迎え、売上は20億円規模にまで成長した。事業所は3ヶ所、従業員も25名を数えるようになったという。
kintoneは2年目に社員の反対を押しのけて導入。スライドには「将来を見たら紙とエクセルでは弱い」とその想いが書かれていたが、実際は社長である金子氏が「うちDXやってます」と言いたいだけで始めたと語る。導入から6年を経て、何回ものシフトチェンジを経て、定着に至るまでの背景と気づきを金子氏は細かいスライド回しで説明する。
試用期間の1ヶ月でやることを5~6年目にやり始めてリボーン
kintone導入は当初「自分(金子氏自身)のめんどくさい」を解消すべく、ゆるゆるとスタートしたが、社員に「面倒くさいと思ったことを教えてよ」という段階に進むと、社員から課題がわんさか出てきた。そこで全員に管理者権限を付与し、全員がアプリを作れるようにした。このシフトチェンジでkintoneアプリ作成に万能感を持つ社員が増えたのはよかったが、「自分のアプリ」が乱造されてしまったため、この段階で初めてアプリ作成のルールを作ったという。
ただ、この頃から「解決したいことってなに?」という疑問にぶち当たるようになった。導入から2~3年が経ち、たどり着いたのは「属人化」という課題。さらに営業現場における現在地と実測値とのずれも問題だった。こうしてkintoneの役割は変わってきたが、なんとなくフル活用までには至れず、4~5年目を迎えてしまう。
この段階で至ったのは、「情報を見る場所」をkintoneだけに絞り込むという方向性だ。中古車販売のフランチャイズに加盟しているため、便利なツールはいろいろあったが、とにかく「見にいく場所」が多かった。そこで、見る場所はkintoneだけにし、数字の入力もせず、選択するだけにしようと考えた。「kintoneをとにかく楽な場所にする」という目的のため、導入から5年目で初めて他のアプリからデータをインポートしてきた。
しかし、ツールごとにデータ形式が違うため、本当はkintoneに自動処理してほしいのに、どうしても手作業が発生してしまう。いつものようにギターの練習、筋トレ、サウナと現実逃避していたが、サウナの神様から「プロを頼れ」というお告げを受けた金子氏は、外注先として四国の会社とゆるくつながり、技術的なハードルを越えられるようになる。
続いて、kintone導入から5~6年が経ち、金子氏が岩盤浴しながら読んだ松下幸之助の名言集には、「3%だったら今までの延長上でコストダウンできるが、3割下げるには、製品設計からやり直さなければならない」とあった。この岩盤浴の神様のお告げを受けた金子氏は、kintoneも「これまでの延長では発想が変わらないため“リボーン”」することにした。
「言うほど過去は見てない」と感じた金子氏は、翌日「2週間見てないファイルは削除しろ」と現場に指示。情報の出口としてのkintoneも整備してきたが、見るアプリが多かったため、メインアプリを1つに統合した。アクションボタン、レコード内のタブ、二重入力なし、アプリ間のスムーズな移動など、多くのユーザーが1ヶ月の試用でやるような機能を5~6年目にして使い始め、リボーンを実現したという。
「自らワクワクしている」ことが一丁目一番地
この流れで人材育成、予実管理、目標管理、従業員同士の評価もすべてkintoneでやるようになったが、ここでは「シンプルにした方が習慣になる」という気づきがあった。フィロソフィやMVV(Mission、Vision、Value)などは、なかなか社員に浸透しないため、kintoneのポータルに貼るようになったという。
金子氏は「無知の知」というスライドを掲げ、「情報のインプットをしてこなかったことを反省している。kintone hiveをちゃんと見たのも先月。コミュニティを知ったのも先週」と振り返る。kintoneのおかげで入力が減り、聞く聞かれるが減り、報告が減り、自走が増え、確かに生産性は上がった。副産物としてコミュニケーションエラーに気づき、朝礼や日報も始まり、在宅勤務やフレックスタイムの導入で働き方改革にもつながった。
ただ、ここまで来ると業務が完全にkintoneに依存していることにも気づいた。しかし、サイボウズから言われた「会社の方針とあっているので、依存でもいいのでは?」という指摘には納得したという。「課題を見つけ、変化することで、価値創造につながっている。このPDCAを続けていくことで、成長に結びついている。kintoneで体現できていることに気がついた」と金子氏。
もちろん、kintoneの導入で定量的な効果を聞かれることもある。しかし、金子氏は「ワクワクしてればいいじゃんと思う。われわれはワクワクという法人名にしているくらい、自分自身でワクワクしていることが一丁目一番地。だから定量にこだわらなくてもいい」と語る。金子氏は「みなさんは(会社内の)“船頭”だと思うけど、まずはワクワクしてください。みなさんがワクワクしてくれたら、必ず共感して仲間が増えてくる」とアピールして、登壇を終えた。

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